都市遊牧民のホテルライフ

2005年02月15日

寝て、見て、わかること。

都市生活者が、都市のホテルに泊まるとき、
どのように過ごしているかと考えてみると、
大方の場合は横になって過ごす時間が多い。

ひとりで観たかった DVD を寝ながら楽しむ。
読みたかった本を寝転びながら読破する。
はたまた、男と女の営みは、寝て執り行う。
ホテルは、横になるための空間である、
と言い切ってしまってもいいほどだ。

もちろん、何かしら物を書いてみたり、
グラスを舐めながら妄想にふけったりと、
座って過ごす時間もそれなりにはある。
男と女の例の営み、その運動も、
たまには、座ったり、立ったりと、
バリエーションに工夫を加える時もある。

でも、座ったり立ったりという時間は、
ホテルライフにおいては、あくまで脇役で、
メインは、やはり、横になり、寝る時間だろう。

その、横になるための空間であるはずのホテルが、
実は、人が横になることをリアルには想像せず、
何となくデザインされている場合がほとんどだ。

別に一人でも、誰かと一緒でもいいけど、
寝て、見て、わかることがホテルにはあるのだ。
男と女のくんずほぐれずの、あの最中に、
そんなことを考える余裕はないかもしれないけど、
一度、じっくり横になって、よく見て欲しい。

なかなかセンスのいい部屋で、
ベッドはシモンズ、シーツはシーリー、
水周りもよく考えられていて使い良く、
グリーンやアートにも気が利いている・・・

なのに、ベッドに横になった瞬間に、
突如として襲われる、あの感覚。
そう、まるで、窮屈な箱の中で、
地べたに寝ているような、あの感覚。

雰囲気のいい空間から与えられていたはずの
さっきまでの、とってもいい気分はもはや萎え、
横になった私の目に飛び込んでくるものと言えば・・・

手入れをされずにササクレだった机の脚、
その背後に埃にまみれてからまるコード、
壁のアートフレームの底面の汚れ、等々。
すべて寒々しく、遠く、よそよそしい。

この空間を作った人が、何を考えて、
いや、何を考えずに作ったかが一挙に露呈する。
それは疑いようのない明確さで、
ノープランでそこに存在しているのである。

さて、本題。

パークハイアット東京の空間には、
ベッドの向かい側に大きめの什器が設えてあり、
テレビや飲み物が収納されていて、
ゆったりとした雰囲気を演出している。

でも、この什器の真骨頂は、
そんな落ち着いた存在感ではなく、
立っている時には目に付かないけれど、
ベッドに横になるとテレビの下に見える・・・

ココ

コレなんです。 

コレ

コレ。

「気ぃ、利いてるやん」

この、寝転んでこそ見える、ということを
ここまで確信犯的にデザインしている例は、
今までに見たことがない。

アートへの配慮にしても、
天井にへばりつく高さに設置されているものや、
逆に、腰ぐらいの高さに設置されているものなど、
目線への気の利かせ方が、さりげなく、うまい。

置かれているものが特別にすごいとか、
壁にかけられたアートがすごくいいとか、
カッコ良くデザインされている備品とか、
そういう自己主張的なものは見当たらない。

巷のタウン誌などに書かれている記事を読むと、
結構、派手な印象で紹介されていたりして、
そのニュアンスには違和感を受けることも多い。

しかし、このホテルの人気の秘密は、
そんな雑誌的なゴージャス性にあるのではなく、
なにげに、さり気なくプランされた、
「目線のデザイン」にあるのではないか。
そう理解すると、妙に納得できたりする。

そういえば、最近汐留や品川あたりに、
モダンでお洒落で、適当に“カッコいい”ホテルが
やたらと増えて、幅を利かせつつある。
が、そこには、本当に何もない。

デザイン雑誌でよく目にする流行りの家具、
薄型のテレビやインターネットの液晶モニター、
カタログだけで選ばれたファブリックの類い、
そんな、こじゃれたセンスを動員し、
ありふれた部品で組み立てられた単なる空間。
ダメダメ、そんなの、ダメ出しの連続だぜ!

いやぁ?、グチっぽくなってしまった。
その訳は、今、この夜更けの環境にある。
実は、オフィスの床にエアキャップを 1枚敷いて、
その上に布団を敷いて寝ながら、これを書いている。

箱の地べたに、まさに寝ている。
当然のことながら、このオフィスは、
寝ることを考えてプランされていない。

実は、先回のパークハイアット東京の話は、
続きがあると思った人が、ことの他、多いらしい。
私としては、あれはあれで
サラッとしていいんじゃない?と思っていたが、
今の環境が、私に続編を書かせたわけだ。

寝ると、ほんといろんなものが見えるよなぁ・・・
見たくない様々なものが見えてしまっていて、
さながら、ネズミ的気分に支配されている。

そう、ここはパークハイアット東京ではない。

と、なりゃ、寝たもん勝ち。

「おやすみなさい」